マーケティングという言葉は、幅広い意味を含んでいます。広告やプロモーションを思い浮かべる人もいれば、ブランディングや商品企画の場面を思い浮かべる人もいるでしょう。そのためマーケティングに取り組もうとしても、何から手をつければよいのか分かりにくいと感じることもあるかもしれません。
この記事では、マーケティング初心者向けの基礎知識として、その定義や業務の流れ、主な種類、戦略を考えるためのフレームワークまでを整理してわかりやすく解説します。
マーケティングとは?

2024年に公益社団法人日本マーケティング協会が発表した定義によると、マーケティングとは「顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセス」を指します。
以前マーケティングは、「商品をどう売るか」「市場をどう広げるか」といった、売り方の戦略として語られることがほとんどでした。しかし、顧客の価値観が多様化し、体験や共感が重視されるようになった今、マーケティングの意味も見直されています。
そこで現在の定義では、売り方の戦略はもちろん、販売の仕組みづくりや日々の活動、顧客との関係構築まで含めて「マーケティング」として捉えるようになりました。ECサイトやネットショップの運営においては、商品ページの内容、情報発信の方法、購入後のやり取りなども、マーケティングにつながります。
マーケティング活動の主な内容

1. 市場調査:顧客ニーズの把握
まず行うのが、市場や顧客を知ることです。どのような人が商品を求めているのか、どんな悩みや期待を持っているのかを把握します。競合分析で商品や価格、販売方法を調べることも市場調査の一部です。
ECサイトの場合、検索キーワードやアクセスデータ、購入履歴、問い合わせ内容なども、顧客ニーズを知るための重要な手がかりになります。感覚だけに頼らず、情報をもとに判断することが大切です。
2. 戦略設計:目標に合わせた計画づくり
市場調査で得た情報をもとに、「誰に」「何を」「どのように届けるか」、ターゲットや提供する価値を明確にしたうえで、売上目標や集客方法などマーケティング戦略を計画していきます。
このとき、マーケティングのフレームワークを活用すると、考えを体系的に整理しやすくなります。たとえば、ターゲットや立ち位置を整理するための分析手法や、商品・価格・販促といった要素を分けて考える枠組みは、「何から考えるべきか」を明確にしてくれます。
あわせて、マーケティングファネルの考え方を取り入れることで、顧客の流れを意識した戦略設計がしやすくなります。ファネルは、顧客が商品やサービスを知り、興味を持ち、検討し、購入に至るまでの流れを段階的に捉える考え方です。どの段階で、どの施策を行うべきかを整理することで、戦略と施策のつながりが見えやすくなります。
EC運営では、どの商品を中心にするのか、どのチャネルで集客するのか、どのタイミングで情報を発信するのかといった判断が求められます。フレームワークは「考える順番」を整える道具であり、ファネルは「施策を流れの中に配置するための考え方」です。これらを組み合わせることで、マーケティング戦略をより現実的に設計しやすくなります。
3. 実施:戦略を具体的な行動に落とし込む
戦略が決まったら、次は計画に沿って施策を実行します。実施のフェーズでは、大きく分けて「商品やサービスそのものへの取り組み」と、「情報を届けるための取り組み」の2つの側面があります。
たとえば、商品ページの内容を見直したり、商品やサービスを改良したりすることは、前者にあたります。一方で、SNSや広告を使って情報を発信したり、キャンペーンを行ったりすることは、後者の取り組みです。商品の発売や取り組みを広く知ってもらう手段として、メディアに向けてプレスリリースを活用するケースもあります。
どの施策を選ぶかは、ターゲットや目的によって変わります。認知を広げたいのか、購入を促したいのか、リピートにつなげたいのかによって、適したチャネルや手法は異なります。
実施の段階で大切なのは、ターゲットに合ったチャネルを選び、一貫したメッセージを届けることです。商品やサービスの価値が伝わる取り組みを積み重ねることで、戦略に沿った成果につながりやすくなります。
4. 評価:結果を確認し、次に活かす
施策を進めたあとは、その結果を振り返ります。売上やアクセス数、購入率などの数値を確認し、取り組みがどのような成果につながったのかを整理します。
ECサイトのマーケティングでは、たとえば次のような指標がよく評価に使われます。
- アクセス数
- 流入数
- 購入率(コンバージョン率)
- 総収益
- 売上成長
- 客単価
- リピート率
すべてを細かく追う必要はありません。目的に合わせて、いくつかの指標を決めて確認することが大切です。評価を通じて得られた気づきは、次の市場調査や戦略設計に活かされます。この流れを繰り返すことで、マーケティングの取り組みは少しずつ精度が高まっていきます。
マーケティング手法の種類

マーケティングにはさまざまな手法や考え方があり、目的やフェーズによって使い分けられます。どれかひとつを選ぶというよりも、複数を組み合わせながら、状況に応じて活用していくのが一般的です。ここでは、ECサイトの運営でよく使われる、代表的なマーケティングの種類を紹介します。
インターネットマーケティング
インターネットマーケティング(Webマーケティング)とは、WebサイトやECサイトに対する取り組みを指します。
目的は、サイトを訪れた人に商品やサービスの魅力を正しく伝え、購入や問い合わせといった行動につなげることにあります。そのため、集客を行うだけでなく、サイト内の見え方や使いやすさといったユーザー体験を向上させていくことも重要です。
SEO対策や商品ページの改善、購入までの導線設計などは、すべてインターネットマーケティングに含まれます。
コンテンツマーケティング
コンテンツマーケティングとは、記事やブログ、動画などのコンテンツを通じて、商品やサービスの価値を伝える手法です。すぐに購入を促すのではなく、顧客の理解を高め、ネットショップの信頼性を深めていくことを目的とします。
ECサイトでは、商品紹介記事や使い方の解説、選び方のガイド、ブランドの背景を伝えるストーリーなどが代表的です。こうした情報は、購入前の不安を解消し、商品への納得感を高める役割を果たします。
また、一度作ったコンテンツは検索エンジンなどを通じて継続的にアクセスを生み出していくため、その蓄積が集客や認知につながる点も特徴です。
SNSマーケティング
SNSマーケティングとは、Instagram(インスタグラム)やX(エックス)、TikTok(ティックトック)などのSNSを活用して、商品やブランドの認知を広げるマーケティングです。情報が拡散されやすく、コメントなどを通じて双方向のコミュニケーションが取れるため、顧客との距離が近くなる点が特徴です。
SNSマーケティングは「知ってもらうきっかけ」をつくる役割を担うため、インフルエンサーと提携することで多くの認知を獲得する方法も一般的です。商品やサービスの魅力を日常的に発信したり、制作の背景や使用シーンを紹介したりすることで、共感や親しみを獲得することができます。
近年は、SNSで商品を知ってもらい、そのまま同じプラットフォーム上で購入まで完結するソーシャルコマースも広がっています。投稿やライブ配信をきっかけに商品ページへ誘導したり、SNSを起点にECでの購買につなげたりする動きや、ライブコマースなども、SNSマーケティングとECを結びつける代表的な例です。
メールマーケティング
メールマーケティングとは、メールを通じて顧客と継続的にコミュニケーションを取るマーケティングです。新規集客よりも、購入後のフォローやリピートにつなげる役割を担います。購入完了メールや発送通知、再入荷のお知らせ、キャンペーン情報などが代表的です。すでに接点のある顧客に情報を届けられるため、関心を持ってもらいやすい点が特徴です。
頻度や内容のバランスを意識し、購入履歴や行動に合わせて内容を調整することで、より伝わりやすくなります。目立ちにくい手法ですが、関係を長く育てるうえで欠かせません。
オフラインマーケティング
オフラインマーケティングとは、インターネット以外の場で行うマーケティングです。イベントや展示会、ポップアップストアなど、リアルな接点を通じて顧客と関わります。
ECサイトを運営している場合でも、実際に商品を体験してもらうことで、オンラインでは伝えきれない魅力を届けることができます。その場でECサイトを案内し、後日の購入につながるケースもあります。顧客と直接コミュニケーションをとるなかで得た気づきをWebやSNSでの発信に活かすなど、オンラインと組み合わせて使うことで効果を高められます。
ソーシャルマーケティング
ソーシャルマーケティングとは、マーケティングの考え方や技術を活かして、社会課題の解決や行動変容を推進する取り組みです。健康的な生活習慣を広めるキャンペーンや、環境への配慮を促す活動などが代表例です。
また、社会課題に向き合う姿勢や価値観を発信することで、ブランドに対する共感や信頼につながる場合があります。
ソサイエタルマーケティング
ソサイエタルマーケティングとは、企業の利益だけでなく、顧客や社会、環境への影響も含めて価値を考えるマーケティングです。ソーシャルマーケティングが「社会をどう変えるか」を考えるのに対し、ソサイエタルマーケティングは「企業が社会とどう関わるか」を考え、短期的な売上だけでなく長期的な持続性を重視したものです。
環境に配慮した商品づくり、地域への貢献、働く人への配慮などは、直接的な販促ではなくても、企業やブランドへの信頼につながるためソサイエタルマーケティングと捉えられます。
商品設計や情報発信、価格設定など、日々の判断の中に取り入れられる点が特徴です。
マーケティング戦略のフレームワーク

戦略設計に活用されるフレームワークは、「何から考えるか」「どこを確認すべきか」を整理するために効果的です。ここでは、基本的なマーケティング戦略のフレームワークを紹介します。
3C分析
3C分析は、マーケティング戦略を考える前に現在の状況整理に使うフレームワークです。3つの視点から自分の事業が置かれている状況を分析することで、無理のない戦略を考えられるようになります。
- Customer(市場・顧客):どんな人が、どんな悩みや目的を持っているのか
- Competitor(競合):似た商品やサービスにはどんな強みや特徴があるか
- Company(自社):自分たちが提供できる価値や、他と違う点は何か
ECでは、「誰に、何が求められているか」を整理するための最初のステップとして役立ちます。
STP分析
STP分析は、自社のビジネスについてターゲット層と市場での立ち位置を明確にするためのフレームワークです。3C分析で状況を整理したあとに使うと、戦略が具体化しやすくなります。
- Segmentation(市場の分解):顧客の年齢や利用シーン、悩みなどで市場構造を分類する
- Targeting(ターゲット選定):その中から、特に向き合いたい層を決める
- Positioning(立ち位置):競合と比べて、どんな価値を強みとしてターゲットに伝えるかを考える
ECサイトでは、STP分析をつかってターゲットを絞ることで、商品ページの表現やSNSでの発信内容がぶれにくくなります。
4P
4Pは、戦略を4つの視点で具体的な施策に落とし込むためのフレームワークです。これまで考えてきた内容を、実際のマーケティング活動につなげる役割を持ちます。
- Product(商品・サービス):どんな価値を、どのような形で提供するか
- Price(価格):顧客が納得しやすい価格帯になっているか
- Place(販路):ECサイト、SNS、実店舗など、どこで届けるか
- Promotion(販促):Web、SNS、メール、広告などでどう伝えるか
WebマーケティングやSNSマーケティングといった手法は、この4Pの中の「Promotion」を具体化したものと考えると整理しやすくなります。
SWOT分析
SWOT分析は、自社の強みや課題を客観的に整理したいときや、方向性を見直したいときに役立つフレームワークです。SWOTとは、次の4つの頭文字からとられています。
- Strength(強み):自社が持つ技術やリソースなど、プラスの要素
- Weakness(弱み):自社に不足している要素、改善が必要な部分
- Opportunity(機会):技術の進歩など、成長につながる要素
- Threat(脅威):競合の存在や景気の悪化など、悪影響を及ぼす要素
「強み・弱み」は自社内部の環境要因、「機会・脅威」は市場の変化など外部の環境要因を表します。すべてを細かく書き出す必要はなく、気づいた点を整理するだけでも十分です。
PEST分析
PEST分析は、社会全体の環境変化がビジネスにどのような影響を与えるかを、次の4つの視点から整理するフレームワークです。
- Political(政治):法律や規制、制度の変更
- Economic(経済):景気や物価、為替などの経済動向
- Social(社会):価値観やライフスタイル、人口構成の変化
- Technological(技術):新しい技術やサービスの普及
ECやネットショップの運営では、消費者の購買行動の変化や、新しいテクノロジーの登場、制度改正などが影響することも少なくありません。PEST分析は、日々の施策というよりも、中長期的な視点でリスクやチャンスを予測したいときに役立ちます。
まとめ
マーケティングは、広告や販促といった一部の施策だけを指すものではなく、顧客を理解し、価値を伝え、関係を築いていく一連の取り組み全体を含む考え方です。
ECサイトやネットショップの運営では、商品ページの内容や情報発信、購入後のフォローなど、日々行っている業務の多くがマーケティングにつながっています。すでに取り組んでいる活動を見直すことが、マーケティングの第一歩になります。
自分の商品を通して誰にどんな価値を届けたいのか、整理するところから始めてみましょう。
よくある質問
マーケティングとセールスの違いとは?
マーケティングは、顧客を理解し、価値を伝え、商品やサービスに興味を持ってもらうための仕組みをつくる活動を指します。一方セールスは、その仕組みの中で実際に商品やサービスを購入してもらうための行動や対応を担います。
ECサイトでは、商品ページの設計や情報発信、導線づくりなどがマーケティングにあたり、問い合わせ対応や購入時のサポートなどがセールスに近い役割になります。両者は分かれているものではなく、連携することで成果につながりやすくなります。
マーケティングとブランディングの違いとは?
ブランディングは、ブランドとしてどのように認識されたいかを形づくる取り組みを指します。マーケティングは、そのブランドや価値を顧客に届け、関係を築いていくための活動全体を指します。
たとえば、「どんな世界観や価値観を大切にするか」を定めるのがブランディングであり、その内容を商品ページやコンテンツ、SNSなどを通じて伝えていくのがマーケティングです。
ブランディングは長期的な視点で積み重ねていくものですが、マーケティングはその考え方を日々の施策として具体化する役割を担っています。
マーケティングと広告・宣伝の違いとは?
広告や宣伝は、マーケティングの中の一つの手段です。マーケティング全体の中で、「どう伝えるか」という部分を担います。
マーケティングには、顧客理解や商品設計、価格設定、販売チャネルの検討、購入後のフォローなど、幅広い要素が含まれます。その中で広告や宣伝は、商品やサービスの存在を知ってもらうための方法のひとつです。
文:Taeko Adachi





