事業の収益性を高めるうえで欠かせない取り組みの一つが、経費の見直しです。利益率を高めるには売上拡大だけでなく、コストを適切に管理して無駄な支出を失くすことが欠かせません。
東京商工会議所が行った「創業の実態に関する調査」によると、業歴1年目の企業では64.3%が赤字経営になってしまったとされています。さらに、経営状況が創業時の見通しを下回ってしまった理由として、経費や給与の負担が予想よりも大きかったといった声も多くあがっています。ですが、このような失敗の多くは未然に防ぐことができます。
この記事では、スモールビジネスでも実践できる経費削減や節約のアイデアをご紹介します。
目次
1. 財務計画を立ててコストを管理する

中小企業の会計において、財務計画の策定は「手間がかかる」「今はまだ不要」と後回しにされがちな業務です。一人経理となりがちな起業初期の場合は、特にそんなケースが多くなるでしょう。しかし実際には、単なる予測やシミュレーションにとどまらず、その手間やコストを超える長期的な節約効果を生み出してくれる可能性が高いといえます。
例えば、財務計画を立てることで現在の財務状況が明確になると、過剰な在庫や利用頻度の低いサービスなど、無駄な支出も見えるようになります。目指すべき目標や指標もあらかじめ数値化されるため、その達成に向けたプロセスや経営判断が迅速化されます。また、予算や必要な投資、キャッシュフローが計画的に管理できるようになれば、急な資金不足や借入も避けられます。結果として、ビジネス運営にかかるトータルコストの節約につながっていきます。
2. 人脈づくりでリソース不足を補う
人脈は、ビジネスを成長させるための重要な資産となります。例えば、自分自身のスキルや時間を使って他社とリソースを補完し合うことで、外注費や固定費を抑えられる場合もあるでしょう。
また、事業に必要な資金を適切に見積もるため、すでに同業種で起業している人や、スモールビジネス支援の専門家から話を聞くこともできます。こうした情報をもとに、現実に即した資金計画を立てることが、安定した資金繰りと継続的な事業運営につながります。以下は、事業運営に役立つ人脈を築き、リソース不足や情報不足を補うための具体的な取り組み例です。
- LinkedIn(リンクトイン)などのSNSやその他のプラットフォームを活用し、事業内容、現在必要としている支援、提供できる価値などを発信
- スモールビジネス向けのオンラインコミュニティ、勉強会、交流会に参加
- 同じ課題を持つ事業者や先輩起業家と接点を持つため、各地域の起業支援施設や商工会議所などのイベントに参加
3. 無料または低コストのデジタルツールを活用する

近年は無料のツールでも驚くほど多くのことが可能です。いきなり新たな従業員を雇ったり、高価なソフトウェアを購入したりせずに、Eコマースビジネス向けAIツールやコンテンツ作成AIツールなど、いくつかのツールを試して必要な機能を把握しましょう。試行錯誤して、自社の業務効率化において何が効果的かを見極めることが大切です。以下より無料の業務効率化ツールをご紹介します。
- Shopify(ショッピファイ)ロゴメーカー:ロゴのデザイン経験がなくても、プロ仕様のロゴやSNS用アセットを作成できます。
- 写真AC:高解像度の画像を無料でダウンロードできます。ウェブサイト上での使用や商用利用が可能です。Adobe Stock(アドビストック)も同様のサービスを提供しています。
- freee(フリー)会計:AI搭載のクラウド会計ソフトです。書類をアップロードすると、仕訳作業を自動で行う機能があります。30日間の無料トライアルが可能で、スタータープランは5,480円/月から利用可能です。マネーフォワード クラウド会計も2,480円/月から同様のサービスを提供しています。
4. 無駄な開発費をかけずに商品を作る
新しい商品アイデアが浮かんだ場合、すぐに製造やブランディングに投資するのではなく、まずは低コストな方法で検証しましょう。事前の確認を怠ると、売れない商品を作ってしまい、結果的に大きな出費や在庫ロスにつながる可能性があります。特に自社で商品を製造する場合は、本格的な開発前に製品テストを行い「本当に需要があるか」を見極めることで、不要な開発費や時間の浪費を防げます。以下は、費用を抑えた商品アイデアの検証方法です。
- 家族や知人にアイデアを共有し、率直な感想を収集
- オンラインアンケートを使って、見込み顧客の反応を確認
- クラウドファンディングを実施し、その反応から事前に需要を予測
- Googleトレンドを使い、検索ニーズの有無を調査
- 「近日発売予定」の商品ページを作成し、メール登録や予約注文数で関心度を確認
5. マーケティングは費用対効果の高い手法に絞りこむ
多くのスモールビジネスでは、広告費や人材面に制約があり、マーケティングに十分なリソースを割けないのが現状です。やみくもに広告費を投じるのではなく、費用対効果の高い施策に絞って取り組むことが、結果的な節約や経費削減につながります。まずは、以下のような基本的かつ低コストの施策を試してみましょう。
- SNSを絞る:すべてのSNSを網羅するのではなく自社の商品・サービスと相性の良いチャネルを選び、継続的に情報発信することで運用コストを抑えられます。
- 自社サイトの最適化:トップページの導線、表示速度、購入や決済のしやすさを改善することで、広告費を増やさなくても成約率の向上が期待できます。
- メール登録者を増やす:登録時の割引や、SNSでの簡単なプレゼント企画を活用することで、広告費をかけずに顧客リストを蓄積できます。
- 既存顧客に注力:ロイヤルティプログラムや紹介割引を導入することで、広告費を抑えながら既存顧客からのリピート購入を促せます。
- 共同マーケティング:親和性の高いブランドと相互に商品やサービスを紹介し合うことで、追加の広告費をかけずに認知拡大ができます。
- マイクロインフルエンサー:高額な広告契約ではなく、商品提供などで協力してもらうことで、費用を抑えつつターゲット層にリーチできます。
- KPIを設定し効果を測定:Google アナリティクスなどを活用しサイトのパフォーマンスや離脱ポイントを把握しましょう。広告を出す場合も、顧客獲得単価(CAC)を算出することで、効果の低い施策への出費を防ぐことができます。
6. 送料を見直し配送コストを抑える

ECを手がける場合でも、スモールビジネスでは大量出荷による値下げ交渉が難しく、配送業者から提示された送料をそのまま受け入れるしかない場合がほとんどです。送料やフルフィルメントの費用は積み重なると大きな負担になりますが、運用方法を工夫することで経費削減につなげることができます。明確な基準を持たずに設定している送料がないか、以下の点を改めて整理してみましょう。
- 送料の負担先:顧客による全額負担か、定額送料にするのか、一定金額以上で送料無料にするのかなど、選択によって利益率は大きく変わります。売上単価や利益率を踏まえ検討しましょう。
- 梱包資材のコスト:配送業者が提供する無料の梱包資材を活用すれば、資材費を抑えられます。ブランディング目的でロゴ入り梱包を使う場合も、本当に必要な商品だけに限定することで無駄なコストの発生を防げます。
- 海外発送の必要性:海外発送は送料やトラブル対応のコストが高くなりがちです。初期段階では国内発送に絞ることで、運用負担と経費を抑えられます。
- 保険や追跡サービス:すべての配送に保険や追跡を付けるとコストが増えます。高額商品やトラブルが起こりやすい配送に限定するなどの方法を検討しましょう。
7. 税負担を抑えて資金を守る
スモールビジネスでは、売上を増やすだけでなく損益分岐点をどれだけ低く保てるかが、安定して事業を続ける上で重要なポイントになります。税制を正しく理解し適切に活用して節税することで、実質的な経費削減につながります。以下を意識することで、継続的に税負担を軽減できる可能性があります。
- 事業経費の管理:取引先訪問時の交通費、駐車料金、業務に必要な消耗品など、少額でも事業に関係する支出は経費として計上できます。日頃から領収書や記録を整理しておくことで不要な税負担を防げます。
- 自宅兼オフィスの控除:自宅の一部を事業に使用している場合、家賃、光熱費、通信費などの一部を経費にできる可能性があります。
- 家族への業務依頼・雇用:個人事業主が生計を一にしない家族へ支払う給与は、通常の従業員と同様に経費計上でき節税につながります。
8.リモート活用でオフィスの固定費を軽くする

現代のスモールビジネスにおいて、固定費を抑える有効な手段の一つがリモートワークの導入です。オフィスで働く場合は家賃、光熱費、備品費など継続的なコストが発生しますが、リモートワークを取り入れることでこのようなコストを大幅に削減できる場合があります。従業員にとっても生産性や働きやすさが向上し、離職率の低下や採用・教育にかかるコストの抑制にもつながる可能性があります。完全なリモート体制が難しい場合は、必要最小限のオフィスを維持するハイブリッドワークも有効です。リモートワークによって、以下のようなコストの削減が期待できます。
- オフィス関連コスト:オフィス賃料、光熱費、メンテナンス、清掃費など継続的に発生する固定費を削減できます。
- 設備・家具購入費:デスク、椅子などのオフィス備品の新たな購入や買い替えが必要がなくなります。
- 交通費:通勤手当や出張費などの交通費を削減できます。
- 消耗品・付帯サービス費用:文房具、オフィス向け各種サービスなどの支出をまとめて減らすことができます。
9. 外部委託で人件費を抑える
人件費を抑える手段として、常時社内に配置する必要がない業務については、外部委託を活用するといった方法が挙げられます。例えばマーケティングやコンテンツ制作などを代行するEC代理店サービスなどに任せることで、新たに人材を雇うコストを抑えられます。以下に注意しながら検討してみましょう。
- 日常的な必要性:日常的に発生する業務を外部委託にしてしまうと、逆に固定費が上がってしまう可能性があります。
- 人件費の総コスト:外部委託の費用対効果を測る場合、社員の給与だけでなく社会保険料、採用・教育コスト、管理工数まで含めて比較する必要があります。
- 注力すべき業務:外部に任せるのは基本的に、売上や事業成長に直結しない業務に限られます。社内の人材やリソースを重要な業務に集中させることで、従業員の負担減や業務改善にもつながります。
10. 取引条件を見直しコストを最適化する
スモールビジネスでは、仕入価格や取引条件のわずかな差が、そのまま利益や資金繰りに直結します。提示された条件をそのまま受け入れるのではなく、定期的に仕入方法や取引条件を見直すことで、コスト削減につなげることが可能です。仕入コストを数パーセント抑えられるだけでも、利益率を改善できるケースも多いでしょう。交渉を効果的に進めるために、以下を意識しましょう。
- 市場価格の把握:競合価格などを事前に調べ、自社が希望する条件や平均的な水準を明確にしておきましょう。
- 仕入先の集約:発注先を絞り購買量をまとめることで交渉力を高められます。
- 継続取引:定期発注や大口注文を条件に、単価や割引率の見直しを依頼します。
- 支払い条件:支払い期限の延長によりキャッシュフローを改善し、資金繰りの負担を軽減することができます。
- 前払い:支払いを前倒しする代わりに価格や取引条件の優遇を検討してもらえる可能性があります。
- セール:季節毎のキャンペーンや期末セールなどを実施しているか確認しましょう。
- 協業によるメリット:共同プロモーションや継続的な発注計画など、取引先にとって価値のある条件を提示してみましょう。
11. 定期支出の棚卸しにより固定費を見直す
スモールビジネスでは、業務効率化のために導入したサブスクリプションや外部サービスが、気づかないうちに増えていきがちです。それぞれは少額でも、毎月・毎年継続して発生する支出は、積み重なると利益を圧迫します。また、フリーランスや外部サービスの管理に時間を取られ、事業成長に直結する業務に集中できないというケースもあるかもしれません。無駄な固定費を減らすために、以下の点を定期的に確認しましょう。
- 定期支出の棚卸し:四半期に一度、利用中のサブスクリプションや定期課金サービスをすべて洗い出しましょう。
- 費用対効果の見直し:利用頻度や費用対効果(ROI)を基準に各サービスが本当に必要か見直しましょう。
- 重複サービス:似た機能のサービスを複数契約している場合は、どちらかに絞ります。
- プランの最適化:機能を使い切れていない場合は、上位プランから下位プランへの変更を検討します。
- 支払い方法:割引が適用される年払いプランを活用しましょう。
- リマインダー設定:無料トライアルを利用する場合は、自動で有料化される前に検討できるよう、カレンダーでリマインダーの設定をしておきます。
まとめ
スモールビジネスにおいて経費削減や節約は、事業を安定して成長させるための重要な経営判断です。売上拡大のみに注力するのではなく、日々の支出や固定費を見直すことで、利益率や資金繰りは大きく改善します。
この記事で紹介したアイデアは、いずれも大きな投資を必要とせず実践できるものばかりです。財務計画の立案、人脈づくりといった基盤づくりから、マーケティング、送料、税務、外部委託、定期支出の見直しまで少しずつ取り組むことで、継続的な経費削減が可能になります。自社の状況に合った施策から取り入れ、健全で持続可能な事業運営につなげましょう。
ビジネスにおける節約に関するよくある質問
どの経費から見直すのが最も効果的?
まず優先したいのは、毎月・毎年継続して発生する固定費です。オフィス賃料、サブスクリプション、外注費、通信費などは、一度見直すだけで長期的なコスト削減につながります。次に、売上規模に関わらず一定額がかかる支出が、損益分岐点にどれだけ影響があるか確認しましょう。固定費が下がれば同じ売上でも利益が出やすくなり、事業の安定性が高まります。
コストを削減することで、売上や品質に悪影響はない?
すべてのコスト削減が悪影響を及ぼすわけではありません。重要なのは「削るべきコスト」と「続けるべき投資」を見極めることです。例えば、使い切れていないツールや重複しているサービスの解約は売上や品質に影響しにくい一方、顧客体験や売上に直結する領域(商品品質など)は、安易に削るべきではないでしょう。目的はコスト削減そのものではなく、利益を残しやすい事業構造を作ることと言えます。
文:Miyuki Kakuishi イラスト:イザベラ・ファスラー





