中小企業では、経理担当者が1人で会計管理を担うケースが多く、日々の記帳や請求書処理からインボイス対応、決算や税務申告まで幅広い業務をこなさなければなりません。限られた時間で正確に進めるためには、会計基準の選択、会計システムの活用、書類管理、キャッシュフローや予算管理など、あらかじめ押さえておくべきポイントがあります。
この記事では、1人経理でも無理なく実践できる中小企業向けの会計のコツを解説しています。限られたリソースのなかでも、正確で信頼性の高い経理を実現したい方は、ぜひ参考にしてください。
中小企業の会計ルール

会社法をはじめとする法令に沿って会計処理を行う必要がありますが、一般に用いられる企業会計基準は、大企業や上場企業を想定した内容が多く、中小企業には負担が大きい場合があります。
そのため、中小企業でも適切に会計処理を行えるよう、官公庁や業界団体によって中小起業向けに簡素化された基準を設けた「中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領)」と「中小企業の会計に関する指針(中小指針)」の2種類が整備されています。
中小会計要領
中小会計要領(中小企業の会計に関する基本要領)は、法人税法に定められた会計処理をなるべく簡単に行えるよう、中小企業の実態に配慮した処理や注意事項をまとめたものです。中小企業のなかでも比較的規模の小さな企業を対象としており、会計処理の基本方針、資産・負債の取り扱い、処理のタイミング、禁止事項などが簡潔に整理されています。
その目的は、経理に割けるリソースが少なくても自社の経営状況を把握でき、金融機関や取引先などの利害関係者へ適切な情報提供できる会計処理を可能にすることです。そのため資金調達が有利になる可能性もあり、例えば日本政策金融公庫や全国の信用保証協会では、中小会計要領を適用している企業への融資の際に、金利の優遇や保証料の引き下げを行っています。また、国際財務報告基準(IFRS)の改定の影響を受けず、頻繁な変更が行われない安定性も特徴です。
中小指針
中小指針(中小企業の会計に関する指針)は、より規模の大きい企業や、会計の専門家が経営に関与している企業を対象とした会計ルールです。中小会計要領と比べて内容が厳密で、一定水準の会計処理を行えるように設計されています。
具体的には、中小会計要領にはない税効果会計、組織再編の会計、資産除去債務についての規定などが設けられています。また、国際財務報告基準にも適合するようにすり合わせが行われているため、その改定に伴って随時見直しが行われています。なお、融資をはじめとする資金調達の場面で優遇を受けられる点は、中小会計要領と同様です。
中小企業の会計業務のコツ8つ

1. 確定申告に向けて準備・計画を立てておく
個人事業主や法人は、確定申告の方法として「青色申告」または「白色申告」を選択する必要があります。書類の作成や保存の方法に違いがあるため、早い段階から決定しておいた方が良いでしょう。
青色申告は、複式簿記による帳簿付けや決算書の作成など、一定の要件を満たすことで、最大65万円の青色申告特別控除や赤字の繰越控除など、さまざまな税務上の優遇措置を受けられます。
一方、白色申告は家計簿に近い簡易な帳簿付けで申告できるため、事業を始めたばかりの人にとって取り入れやすい申告方法です。ただし、控除額は最大10万円にとどまり、青色申告に比べて優遇措置が少なくなっています。
2. 費用や収益の計上タイミングを知っておく
収益や費用をどのタイミングで会計処理する(帳簿に計上される)べきかについては、「発生主義」「実現主義」「現金主義」の3つが代表的な考え方となります。これらを理解しておかないと、例えば黒字なのに支払いの現金が足りなくなってしまったり、決算時に費用が計上できず税額が増えてしまったりといった事態が起きる可能性もあります。
- 発生主義:現金の受け渡しに関係なく、取引が「発生した時点」で収益や費用を計上する方法。企業会計では標準的に採用されており、期間ごとの損益を正確に把握できる
- 実現主義:収益を「取引が完了し、対価を受け取る権利が確定した時点」で認識する考え方。例えば、商品を引き渡した時点や検収が完了した時点が収益の実現とされ、発生主義と組み合わせて運用される
- 現金主義:現金の「入出金時」に収益または費用を計上する方法で、家計簿に近いシンプルな考え方。小規模事業での管理には取り入れやすいものの、正確な期間損益の把握が難しく、融資や投資家対応においては透明性に欠けると判断されやすい
現在の日本の企業会計では、費用は「発生主義」、収益は「実現主義」に基づいて認識することが一般的です。
3. インボイス制度への対応を整える
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は、売手が買手に対して正確な消費税額を明示するための仕組みであり、買手は「課税事業者から仕入れた」ことを証明する適格請求書を受け取らなければ仕入税額控除を適用できません。
取引先が課税事業者・免税事業者のどちらに該当するか、どのように制度へ対応しているかによって、会計処理も変わります。まずは、自社と取引先の双方が制度にどう関わっているのかを把握しておくことが重要です。
実際の業務で負担を増やさずスムーズに対応するために、次のポイントを押さえておくと効率的です。
- 取引先のインボイス登録状況を事前に確認する
- 会計システムや請求書発行ツールを制度対応版へ更新する
- 請求書・領収書の受取ルールを明確にする
- 免税事業者との取引方針を整理しておく
4. 会計システムで自動化する
収入や経費を正確に把握することは、会計管理の基本です。経理にかかわる人員を確保できていない中小企業は、会計システムを導入することで売り上げや経費の入力、請求書の発行・管理、従業員の給与支払いなど、多くの時間と手間を要する作業を自動化できます。また、手作業による集計に比べて入力ミスが大幅に減り、決算や確定申告の際の負担も軽減されます。
近年は、クラウド型の会計ソフトが主流となっており、サーバーなどを用意せずとも手軽に導入することができます。銀行口座やクレジットカード明細の自動取得、インボイス制度に対応した請求書作成機能など、実務に必要な機能が搭載されており、日々の記帳が効率化されるだけでなく、リアルタイムで財務状況を把握でき、経営判断の精度向上にもつながります。
また、従業員を抱える企業の場合、会計システムと給与計算ソフト、勤怠管理ツールを連携させることで、支払い業務や社会保険手続きもスムーズに進められます。業務の標準化・効率化を図るうえでも、会計システムの導入は非常に有効です。
5. Ecxelやスプレッドシートを活用する
最小限のコストで効率化したい場合は、表計算ソフトであるExcel(エクセル)やスプレッドシートの関数・マクロを活用する方法も有効です。基本的な集計作業や経費管理が自動化され、現場の負担を小さくしながら必要なデータを整えることができます。
たとえば、以下のような関数を利用すれば、ミスしやすい計算や見落としがちなデータ抽出を自動化できます。
- SUM関数:指定したセル範囲に含まれる数値をまとめて合計する機能
- COUNTIF関数:範囲内で特定の条件を満たすデータがいくつあるかを数える関数
- VLOOKUP関数:表の中から検索条件に一致する情報を探し出し、その値を表示するための関数
- IF関数:あらかじめ設定した条件を判定し、その結果に応じて異なる値を表示する処理
6. 会計事務所に業務委託する
経理担当者が不足している企業や、記帳・決算に十分な時間を割けない場合には、会計事務所へ業務委託する方法も有効です。外部の専門家が継続的に会計処理を行うことで、正確なデータを安定的に確保でき、本業にも集中できます。
業務委託の範囲は、日々の記帳だけでなく、給与計算、請求書の作成、決算業務、税務申告など多岐にわたります。会計業務全般または部分的な依頼など柔軟に対応してくれるケースが多いため、自社の規模や予算に合わせて柔軟に運用できます。また、専門家によるチェックが入ることで、法令遵守や税務リスクの低減にもつながります。
7. 予算を作成する
中小企業でも、年間の収益見込みと経費計画を明確にし、それらを予算として策定しておくことが会計業務の効率化につながります。月次・四半期ごとに予算と実績を比較し、どの部分で計画と乖離が生じているのか把握できます。予算とともにこうしたファイナンシャルプランも見据えておくことで、コスト削減のポイントを発見したり、設備投資や人材採用などの拡大に向けた判断材料を得たりすることができます。
予算を作成している企業は、作成していない企業と比べて財務パフォーマンスが良好である傾向にあります。特に、予算と連動させたキャッシュフロー管理を行う企業は、キャッシュイン・キャッシュアウトの動きを早期に把握できるため、キャッシュフローの悪化を未然に防ぐ効果が期待できます。一方で、予算が明確になっていないケースでは、資金が不足する「キャッシュクランチ」が発生して初めて問題に気づくケースも珍しくありません。そのため、キャッシュフロー計算書を作成し、営業・投資・財務キャッシュフローなどを含めた資金の流れを可視化することは、経理や会計業務の精度を高めるうえで極めて有効です。
8. 必要書類を保存する
適切な会計管理を行うためには、日々発生する取引に関する書類を確実に保存しておくことが不可欠です。領収書、請求書、納品書、契約書、銀行明細などの証憑は、経費計上や売上計上の根拠となる重要な資料であり、税務調査においても必ず確認されます。
法人の場合、帳簿や証憑書類の保存期間は原則7年間、個人事業主は5〜7年と定められており、適切に保管していない場合は控除が受けられなくなったり、追徴課税が発生する可能性があります。また、メールで届く請求書やPDFの領収書も「電子帳簿保存法」に基づいた保管が必要です。保存要件に沿った形で管理することで、法令遵守と業務効率化の両方を実現できます。
しかし、中小企業や個人事業主の経理業務では人手が不足しているケースが多く、書類管理に十分な時間を割けない場合も少なくありません。そのような環境でも効率よく運用するためには、書類を紙のまま保管するのではなく、受領した段階でスキャンしてデータ化し、仕訳と紐づけて一元管理する方法が効果的です。freeeのようなクラウド会計システムや証憑管理アプリを活用すれば、スマートフォンで撮影するだけで仕訳に自動連携できるため、紛失リスクを減らしつつ、必要な資料をすぐに検索できる仕組みを構築できます。結果として、整理の手間が省け、決算や確定申告時の作業負担も大幅に軽減されます。
まとめ
経理に携わる人員や処理にかかる時間といったリソースを割けない中小企業では、会計業務を効率化しておくことが欠かせません。企業規模や体制に合った会計ルールや、インボイス制度への対応について把握しておくとともに、必要に応じて会計システムやエクセル、業務委託などで会計業務の負担を減らしておきましょう。
また、年間予算を作成してキャッシュフローと合わせて管理することで、会計処理が効率化されるだけではなく、資金繰りの悪化を防ぎ、経営判断の精度を高めるといった効果も得られます。これらのコツを取り入れることで、限られた人員でも安定した会計体制を構築し、企業の持続的な成長につなげることができるでしょう。
中小企業会計に関するよくある質問
会計とは?
会計とは、ビジネスの財務データを整理・記録し、適切に提示するプロセスです。企業の財務状況を分析し、業務の進捗管理や経営判断、経営者・金融機関などの関係者への報告などに活用されます。
インボイス制度に対応するために必要なことは?
仕入れにかかわる税控除を受けるには、取引先が適格請求書(インボイス)の発行事業者であるかどうかを確認しておく必要があります。また、自社が適格請求書を発行するには、あらかじめ税務署に申請して登録番号を取得しておく必要があります。登録申請は決算のタイミングで行い、翌年度からインボイスの発行ができるようになります。
会計システムは導入した方がいい?
必須ではありませんが、仕訳や請求書管理を自動化できるため効率化に大きく貢献します。特にインボイス制度や電子帳簿保存法へ対応するためには、会計システム上で証憑書類などを管理しておくことが望ましいでしょう。
中小企業の会計でも税理士に依頼する必要はある?
経理の人員などを確保できない中小企業にとって、税理士や会計事務所にアウトソースする方法はとても効果的です。税務処理の手間を大幅に減らしながら、正確性を高めて控除漏れや誤った申告を防ぐことができます。消費税計算は特に複雑な処理となるため、専門家のチェックを受けられる方が安心できるでしょう。
文:Momo Hidaka





